うそラジオ Podcast 松任谷由実はじめました

***** 松コンサート *****

その男は、48回以上は叫んだ。
48回までは数えていたが、それ以上は無理だった。なぜなら私がノリノリアゲアゲになってしまい、他人のことなどどうでもよくなってしまったからだ。
「聖子ぉーーー!!!!」
男は低い声で叫び続けた。どんなコンサート会場でも、心の底から、どデカイ声援を送るファンがいるものだが、今回私はそんな熱い人の隣の席をゲットしてしまったのだ。日本武道館、アリーナの真ん中右端あたり。その声は心の底からというよりも胃の底のもっと下、大腸あたりから涌き出ているように思えた。
「聖子ぉーーー!!!!」
年のころは30過ぎだろうか。ラフな服装をしているが肌は中年そのもの。
「聖子ぉーーー!!!!」
叫ぶごとに汗が吹き出てメガネがくもる。パッと見、ゲド戦記といった感じといえば伝わるだろうか。ゲド戦記は見ていないが、その響きがぴったりなのだ。
その反対側では、私の連れの超イケメン・できることなら結婚したいがオカマだから無理・・の彼が 「見て見てー あそこに国旗があるよー」と武道館の天井を指して言う。
「まあ、ここ日本武道館だからね・・・」と適当な返事をする私に「ふーん、そうなのー。だってぼく、武道館来たの初めてだもーん。アゲー」と、ウブなことを言って驚かせてくれる。
左にゲド、右にウブを従えての聖子ちゃん観戦は、予想以上にお祭り騒ぎだった。生涯アイドル宣言をした聖子ちゃんはウソツキではなかった。2006年現在も、どアイドルなのだ。しかも必要以上に。過剰に。スワロフスキーのキラキラをつけちゃってるドアノブみたいな。
衣装なんてもう着せ替え人形状態。「え?それ着ちゃうの?」ってののオンパレード。ステージのセットも「え?全部電飾?そのイラストの極意は?」って思ったのもつかの間、終わる頃には「いいのだ、これでいいのだ!!」と、演出家のような気分にさせられる。
ニューアルバム「bless you」の楽曲を中心に・・・と言いつつも、フタをあければ懐かしい曲が1000本ノックみたいに次々と流れてきて一瞬で私は中学生に戻っていた。
「聖子ぉーーー!!!!」
ゲドの声援はますますヒートアップ。お産で言うなら、つわりの間隔がせばまってきたかんじ。イントロで、間奏で、歌終わりの余韻で・・・
「聖子ぉーーー!!!!」「聖子ぉーーー!!!!」「聖子ぉーーー!!!!」
中学生に戻ってうっとりしているのは私だけではない。まわりの女たちもいっせいにタイムワープしている。青春時代を誰にも邪魔されたくないという気持ちがゲドに戦いを挑ませるのか。近くの少女(今はおばさん)がゲドに言った。
「お願い! もうちょっと静かに言って!!」
もはやゲドの戦いもこれまでか。と思ったが、ゲドのほうがうわてだった。すごい。ゲド、ばばあの小言を完全無視。 もう、『ルールは俺だから』ワールド。
「聖子ぉーーー!!!!」「聖子ぉーーー!!!!」「聖子ぉーーー!!!!」
聖子ちゃん観戦プラス、ゲド観戦もしなくてはならなくてなにかと忙しい私。おまけに右のウブは曲が変わるたびに「ねえ、これはなんていう曲?有名?ぼく知らないよー」「赤いスイートピーと青い珊瑚礁が聴きたいよー」とやっぱりウブなことばかり言ってうるさい。
そんな中、私は聖子ちゃんの歌と踊りを見ながら考えていたのは、ゲドでもなくウブでもなくユーミンのことだった。なぜなら、ステージで流れるあの頃の曲がユーミンナンバーばかりなのである。
もちろん聖子ちゃんのアイドル時代を支えたのはユーミンと言っても過言ではないけれど、それにしても呉田軽穂メロディばかりやってくれて私の涙腺はゆるくなった・・・というか切れたのである。へその緒をぶったぎるように。
泣きながら『赤いスイートピー』を1万人とともに合唱。聖子ちゃんなんか客席にマイクを差し出して、完全に歌ってないし。客席がステージ状態。
ツアーも終わったので、その他のユーミンナンバーを書いてみると・・・・『秘密の花園』『時間の国のアリス』『Rock'n Rouge』、そして『制服』に『レモネードの夏』に『ボン・ボヤージュ』と、ぐへへへへへものである。
コアな聖子ちゃんファンや、しょこたんこと中川翔子ちゃんなんかはもっとアルバムの隠れた名曲をやってほしいのが本音だろうが、私のような普通の聖子ちゃんファンにはじゅうぶん楽しめる2時間半だった。
聖子ちゃんのMCも、とんちが聴いてて笑えた。いまどき、とんちなんて言葉を混ぜてコンサートレポを書くライターなんていないが、私にとってあのトークはとんち以外のなにものでもない。
そして結局、ゲドが2時間半に渡って何回「聖子ぉーーー!!!!」と叫んだのかわからないが、たぶん80回はいったのではなかろうかと思う。ある意味あの日は、聖子とゲドのミュージックフェアだったともいえよう。
武道館の室内灯がいっせいにつき、その中を誰よりも満足気に帰っていった彼を、私は愛おしく思った。おおゲド、どうしてあなたはゲドなの。
とは言っても、決して抱きしめたいとは思わなかったが・・・・・。