*****ニコタマはスリルショックサスペンス*****
第二回うそラジオの集いの実現にむけ、スタッフ一同、日々徹夜で作戦を練っている。というのはまったくの嘘である。ぼんやりと考えている。というのが正解。
ただし、『ニコタマ勝手にウォーキングスタンプラリー』の発案は、ユーミン自身であるから、なんとしてでも実現せねばならないだろう。御存知ない人のために説明すると、今年の夏でうそラジオも三周年を迎えるし、リスナーの要望も多いし、リスナーとたまには距離をつめるのもよかろう! 前回の集いは20人程度の限定参加形式だったのでもうちょっと大勢が参加できるものもよかろう! というノリで話が進んでいるのである。
『ニコタマ勝手にウォーキングスタンプラリー』とは、ユーミンの聖地というか、ただユーミンが住んでいる二子玉川(通称・ニコタマ)で、ユーミンおすすめのスポットを参加者が4〜5箇所スタンプラリー形式でお散歩し、最終的にゴール地点の店でみんなで食事しましょうよっていうモンシロチョウがふわふわ飛んでそうなノンキなイベント。
「これなら50人ぐらい、まとめて面倒見られるよ」
ユーミンもノンキにそうつぶやいていた。実現したら本当に楽しいに違いない。ただし、ただのお散歩だと思ったら大間違い。ニコタマはスリルショックサスペンスだ。仏の世界や江戸時代あたりにトリップするわ野鴨と鯉と白鷺に夢中になるわ高級住宅街を堪能できるわ・・・・。
そして畑も健在である。大邸宅の横に畑がけっこうあり、あちこちで農業が行なわれている。こんなものもある。ユーミンの家の近くで発見し、思わず おーーーーーーーっ と歓喜の声をあげてしまったもの・・・・野菜の自動販売機である。
大根やほうれんそうなど、いろんな野菜が透明なロッカーみたいな箱に入っていて、それぞれに指定されてある金額を入れると開く仕組みだ。私がちょうど おーーーーーーーっ と歓喜ってると、ラッタッタらしき原付に乗ってきたおばさんが大根を買った。
カブみたいに太い大根である。思わず私は、「いやいや、太いですねえーーー」と声をかけてしまった。もう完璧にぶらり途中下車の旅である。カメラを回していれば、かなりいい画が撮れただろう。目をつぶれば小倉久寛か阿藤海が浮かぶ。
おばさんは言った。
「これね、大蔵大根っていうの。大きいでしょう。おいしいのよ。煮物とかね」
阿藤海だったらそこでこう言うだろう。
「煮物かあ、おいしそうだなあ。おかあさーん、食べさせてよ。・・・・え? ほんと? いいの? ごちそうになっていいの?? 家いっちゃっていいの? いやあ、すみません・・・」
そこであのナレーション。『あらあら阿藤さん、なんだかうまあく話をつけちゃって、けぇーっきょく、大蔵大根の煮物にありつくことに。うまいんだからー阿藤さん・・・・』とかなんとか。
なんでも大蔵大根というのは、普通の大根にくらべ水分が少ないので煮物やおでんに最適らしい。大蔵大根の大蔵は地名でその畑があるまさにその場所のこと。大蔵大根のルーツは江戸時代。もともとは杉並区あたりで作られていたが、やがて世田谷区の大蔵に伝わりその土地名がついたのだという。
ユーミンの住むあたりにはそういった昔ながらの畑が多くて驚く。ニコタマはブラウスは必ず襟をたてて着る、いわば女子アナみたいな人種から、泥のついたもんぺとジーンズをさらりとはきこなす農民が共存している街なのである。
先日、ユーミンのおすすめスポットにも入っている『岡本民家園』に友達を連れて遊びに行った。わらぶき屋根の古い民家がある場所で、映画で見たような古い日本の家の様子をこの目で見ることができる。ラストサムライごっこ&たそがれ清兵衛ごっこが軽くこなせる場所だ。
「あがってお茶とか飲めるんだよ。民家園のおぱさんが囲炉裏のところにいて話とかするの」
そうユーミンが言っていた通り、囲炉裏とおばさんがひっそりとお出迎え。係員ということなのだろうが、おばさんといっても限りなくおばあさんに近いおばさんなので味があった。
私が行ったときは、小学二年生ぐらいの二人組みの女の子も来ていて、囲炉裏を囲んで一緒にお茶を飲んだ。するとそのひとりの少女が、お茶にひとくち口をつけ、ため息まじりにこう言った。
「ふうっ、心があたたまるわぁ」
その瞬間、私はこの少女に心が奪われた。次に彼女は、囲炉裏越しに見える鶏が駆け巡っていそうな昔風の茶色い土の庭を見つめながら、
「ああ、いい景色。落ち着くわぁ」
と言い、今度は部屋の中をぐるりと見渡して、
「なつかしいわぁ すごく」
と言って私のハートをノックダウンさせた。
話に聞くと、少女の家はマンションで、室内のどこにも日本風の場所やモノがないのだという。だから唯一彼女にとってこの場所が、彼女にとっての日本であると言うのだ。細胞が懐かしいと叫んでいるということなのか。
なんにせよ、そこに行くと時代的にも精神的にもトリップしてしまうのだ。そしてその民家園の隣にあるのが岡本神社。松任谷夫妻が奉納した立派な石灯籠があり、ちょっとしたプチ名所にもなっているらしい。
厳かに刻まれた松任谷正隆、松任谷由実という文字は生で見るとなんとも言えない。。私も一緒にいた友達にせっせと説明をした。
「見て見てー。これユーミン夫婦があげた灯籠なんだよー」
「へえー。あ、ホントだ。松任谷って名前が彫ってある。すっげーーーー」
そう会話したほんの数秒後。
前からやってきた民家園の係員らしき若めのおばちゃんが、サービスのつもりか私たちに言った。
「ねえ、お姉さんたち見た? 荒井さんちのユーミンちゃんの灯籠!! あるんだよ!! 知ってる??荒井さんちのユーミンちゃんの!!」
私のハートがノックダウン。
荒井。なぜ荒井? いかようにして荒井?
おばちゃんの頭の中でなぜか生き続けている荒井。石に松任谷と鮮明に彫られているのに荒井。みんなに伝えたいという想いなのに荒井。
荒井荒井荒井荒井。
それだけが私の胸に、鋭く切なく突き刺さったのである。カメラを回しておけば、かなりいい画が撮れたにちがいなかった。阿藤海のオーバーリアクションとともに・・・・。