*****苗場キッズ*****
「なんか・・・新弟子審査って感じだよね」
ゴリケンの横でそうつぶやいたユーミンは、まだ何か言い足りないのか少し黙ってから、
「発育のいい中学生!!そう、そんな感じなんだよ」
と、自信満々に言い放った。内なる自分に勝ったかのような言いっぷりでもあった。
打ち上げ会場でのうそラジオの収録はとうに終わっていたのだが、録り終わった後、ユーミンはしばらくしてまた大木・ゴリケンのテーブルに来て2時間ほど喋っていたのである。放送の中で、
「誰か止めて〜 私のパワー!!」
とよじれた声で叫んでいたユーミンだったが、この日のユーミンパワーは誰にも止められなかった。
今年のベストソングでもあるミュージックフェアーのテーマ曲は歌うは、かつて封印したはずの握手ギャグ「エビ」も復活していた。「小エビ」も蘇った。
雪山を見ながらの宴は朝五時半まで続いた。
そして、ユーミンがいろんな言いまわしでひとりボキャブラごっこを楽しんでいた対象人物・ゴリケンとは、聞えようによっては【ホリケン】だが、実際は【ホ】ではなく【ゴ】。ゴルゴ13のゴ。ゴーリキーのゴ。ゴシップ記事のゴ。のゴリケンだ。
今回ビビる大木君とともに苗場入りした筋肉質系のでぶキャラ芸人のことである。新弟子審査、発育のいい中学生、弁当屋の次男、ハンズでどれを買えばいいのかわからなくてずっと迷ってる客・・・といろんな表現が似合う彼。
ブリザーディウムで、私は彼の隣の席だった。初対面のわたしたち。ステージが始まる前、おたがい気を使って話しかけたりかけられたりしあったが、話がなかなか続かない。しかし、糸口が見つかった。
「普段はどんな音楽を聴くの?」
という社交辞令的な私の質問に対し、つぶらな目をキラキラさせてゴリケンは言った。
「ハウンドドッグっすね」
やはり人間は共通の話題があればあるほど、壁の厚さ・高さが崩れていく。なければないほど、壁の厚さ・高さは増していく。このとき彼の発したハウンドドッグという言葉で、私はうんちくを語れる単語を見つけてニヤリと笑ったなぎら健壱のようにニヤリと笑った。
「私ね、ときどきカラオケで【グッバイ・ドリーマー】歌うよ」
【グッバイ・ドリーマー】
わかる人にだけわかる言葉である。一種の暗号とでも言おうか。84年、ハウンドドッグの9枚目のシングルだ。私は85年までの初期のハウンドドッグについてなら15分ぐらいは語れる。思い出せばそれまでのアルバム曲はカラオケで歌えると思う。
私はしつこい性格なので、気に入ったものは何度も見たり聴いたりするので大人になっても結構すぐに思い出せるのだ。ハウンドドッグの初期ものは当時出たばかりのウォークマンカセットで毎日聴いていた。あのときの行動が苗場の客席で役に立つとは思わなかった。
私がマニア心をくすぐる【グッバイ・ドリーマー】と言ったら、ゴリケンは興奮気味に言った。
「ああ!! うれしいっす!! ドッグキッズっすね!!」
「・・・・・・。ドッグキッズ??」
「そうっす。ドッグキッズっす!!!」
「・・・・・・・・・。」
残念ながら、そこまではついていけなかった。どうやらファンの間ではハウンドドッグ好きのことをドッグキッズと言うらしい。
うーん、そうか、私はドッグキッズだったのか。・・・・・・知らなかった。
そしてユーミンを待ちながらドッグキッズな二人で【グッバイ・ドリーマー】を軽く口ずさんでみたりした。苗場で私は何を歌っているのだろう・・・と軽く心にハテナを抱きながら。
なんでもゴリケンという芸名は、ハウンドドッグの大友康平さんがつけたらしい。昔、あるラジオ番組で優勝したら夢を叶えてもらえる企画があり、その青年(将来のゴリケン)は見事優勝。で、その青年の夢が、大好きなハウンドドッグの大友さんに自分の芸名をつけてもらうことだったということなのだ。
我らのユーミンも名前をつけるのが非常にうまい。昔オールナイトで「ユーミンにペンネームをつけてほしい」というハガキがあり、確かそのときユーミンは彼女に【フランス大好きっ子】というペンネームを授与したような気がする。スタジオじゅう大爆笑だった。
私は笑いながらも悔しくてたまらなかった。フランス大好きっ子という言葉が出るユーミンのその食道すらが憎かった。ああ!! なんて奇妙なその言い回し!!! アバンギャルドだわ!!イッちゃってるわ!!
当時の私はそれを間近で聞いて、しばらくこの人についていこうと決めたものだった。
苗場でのユーミンは、相変わらずフランス大好きっ子の感覚を失っておらず、見るものを自分の膜を通して吐き出していた。アサリが砂を吐くように。
だが、吐くものがあれば吸収するものもある。新潟の新鮮な魚介類に山の幸。ステージがない日は、メンバーやスタッフらとそれらを食す。そしてシメは餅。新潟でのシメはマンゴープリンでも杏仁豆腐でもなく、プリンスホテルの中にある【もち処・雪国】の餅である。
みんながまだカニや刺身や日本酒で楽しんでいるところを、
「じゃ、お先に」
と手をあげてさっさと餅を求めに行くユーミン。
「最近はさあ、おろし餅はもういいの。あたしの中では。終わったの。おろし餅は。・・・・・今はね、あべかわ!!」
真っ白な丸いおもちにたっぷりのきなこ。でもユーミンはそれにかぶりつかず、お箸でそのおもちを八つにちぎり、ひとつひとつをきなこに丁寧にからめて食べていた。
「こうね、からめてからめて・・・・からめてからめて・・・きなこをからめてからめて・・・」
思わず目を見張るほどのからめっぷりだった。生まれてこのかた、こんなに餅にきなこをからめている人間を見たことがなかった。誰かがのりうつっている!!誰かに操られている!!と言われれば、今なら信じることはできる。
「こうね、からめてからめて・・・・からめてからめて・・・きなこをからめてからめて・・・からめてからめて・・・・・そして・・・食べる!! ・・・・う、う、うまいっ!!」
おしるこをすすりながら私は思った。
もうしばらくこの人についていこうかなと。