*****レディースパック洋服裁判*****
今週の放送で、「うそハウス」なる新しい言葉が登場した。
「うそハウス」・・・・うん、意外といい響きだ。うそとハウスのマッチング具合がライトでいい。「うそアパート」はダメで、「うそマンション」「うそハイツ」「うそ団地」はいい。食べ物で考えるなら「うそそば」は弱いが「うそうどん」はグッとくる。「うそ茶漬け」なんて商品名としてすぐにでも歩き出せそうじゃないか。苗場で売ろうか。
話が無駄に広がる「うそハウス」という言葉だが、「ハウス」と聞いて思い出したことがあった。
今から二ヶ月ほど前のこと。まだ半袖でもギリギリオッケーなとある土曜日。私はユーミンの家にお呼ばれをした。お呼ばれといえば聞こえはいいが、わかりやすくいうと「集合」をかけられたのだ。
「明日はね、午後から洋服の部をやります。来れる??」
洋服の部。前衛芝居があるわけではない。引越し用語である。このころは、まだシャングリラ2の公演が続いていたため、ユーミン邸の引越しはマイケルが鼻をちょっとずつ何回にもわけて直したように、ちょっとずつ何回にもわけて行われていた。
CDやビデオまわりの部やキッチンまわりの部や音楽まわりの部など。
で、この日は、洋服の部ということで、ユーミンとスタイリストの金沢さんが中心になり、洋服の整理と運搬を一気にしてしまう計画が進められていた。他にもスタイリストのしずかちゃんとくままろもいた。私が呼ばれたわけは、「いらない服は軽トラで取りに行きますから」といつも口をすっぱくして言っていたからだろう。
当日、私は約束の時間より少し遅れてしまった。玄関横には金沢さんの車がすでにとまっていた。ピンポンを押す前に、何気なく玄関のドアノブを回してみた。くるり。ガチャ。おいおい、開けっ放しかよ。
「オオカワでえーーーす」
シーン。返事がない。勝手知ったる他人の家。勝手知ったる金持ちの家。えーい、あがっちまえ!!
「はいはい、もう勝手にあがりましたからねーーーー」
ずんずんと廊下を進み、二階へとつづく階段をのぼると、ユーミンwithレディースパック部隊が洋服と格闘していた。
「あー、オオカワさん。どうもー。あ、軍手ね、そこらへんにあるからね」
と、洋服がみっちりつまった専用部屋に埋もれながらも、早速の指令をくだすユーミン。
くままろが、この状況を説明する。
「あっちのふくろがーーー、いらないやつでーーー、あっちのふくろがーーー、ちょっといるかもなやつでーーー、いるのはーーー、こっちのふくろーーー」
仕事の現場ではないせいか、いつも以上に気が抜けているくままろ。へらへらしている。くまへら。そのへらへらなくままろが指すすべてのところに、東京都指定のごみ袋が口をあけていくつも並んでいた。
好き・嫌い・好き・嫌い・・・の花占いみたいに、一枚一枚の洋服を、いる・いらない・いる・いらない・・・とチェックし、その洋服の未来を決めているというわけだ。新居まで連れて行かれる組(勝ち組)か、ここでオサラバする組(負け組)かが決まる、洋服たちにとっては辛い裁判でもある。
「ねえねえ、見てー!! こんなの着てたよねーーーー!!」
そういって、すでに化石化しているシャツやパンツを続々と出してくるユーミン。
「うわあーー、なんですかあ、これ??」
と、素直に驚くのは一番ヤングなしずかちゃん。バブルファッションを生で知らない世代。でもユーミンは自分なりに思い出もあるようで、判断がにぶる。
「うーん。これどうしようかなあ・・・もう・・・着ないかなあ?」
ユーミンに見つめられ、無言だが強くうなずくレディースパック部隊。ダラダラやっていると日が暮れる。心を鬼にして捨てないと引っ越しは進まない。みんなの「すぐさま捨てろ!!」という眼力パワーでユーミンを説得。やがてユーミンは意を決したように叫ぶ。
「よーし、こいつはもういらない!!よーし、おまえもだ!!」
だが、さすが衣装持ちのユーミン。六畳の部屋に端から端までびっしり洋服がつまっているといっても大げさではない量だ。いや、それ以上か。ユーミンが心を鬼にしてもすぐには終わらない。
それでもなんとか作業が進むうちに、かなりの服がさよなら袋に吸い込まれていった。そして中にはもちろんお宝も。
「あーー、この水着はねーーー、84年?? 確かその頃のさー、コンパートメントの時に着てたんだよーーーゲラゲラゲラーーー!!」
一同ゲラゲラゲラー!!でもそれは貴重だ!!ということで、その場では「事務所行き決定!!」とか言って盛り上がったが、盛り上がっただけで終わったかもしれない。さよなら袋に行った恐れもあり。
それから、流行は繰り返すということも頭に入れ審査するのはさすがプロの金沢さん。
「このコートの柄は、もう一回くるかもしれないんで・・・・由実さん、とっておきましょう!!」
「そうだね、これ、またくるかもだよね。ハイ、とっておきましょう」
「これは・・・由実さん・・・微妙・・・」
「うーん、どうしようか・・・」
ユーミンと金沢さんが頭を悩ませていると、しずかちゃんがさらりと言う。
「え?? これですか?? これはナシですよ。捨てましょうよー」
どうやらしずかちゃんは捨て魔らしい。捨てるのが好きだと自分でも白状している。なにかにつけて「捨てましょうよー」と言っている。
その奥で、さよなら袋担当のくままろと私が、今見ると笑ってしまうシャツやパンツを広げて「見て見てこれーー」と言って笑っていた。人の過去を見て笑うなんて失礼極まりない。
そんな洋服裁判もすべて終わり、次は新居での洋服整理。前の整理部屋よりも倍の広さがあるというのに、3分の1を整理したところですでにいっぱい。
「あんなに捨てたのに、なんでなの??」
と、口々にみんなつぶやいている。途中からユーミンとくままろが一時間ほど別の場所にいってしまったときは非常におもしろかった。レディースパック部隊は金沢さんとしずかちゃんと私。
最終的な整理は、もちろんユーミンがやる。ただ、ユーミンが整理をしやすいように、スカートやパンツやコートなど、ジャンルごとにわけてかけといてあげよう!!という単純な作業なのに、量がハンパじゃないからまったく進まない。途中から軽いノイローゼみたいなノリになってきた。やってもやっても片付かない。アリンコがスニッカーズを必死で食べてるみたいな。いつまでたっても食いおわらん!!みたいな。
「おっかしいなあ、なんでさー、こんなにあんの?」
「あっ! こっちにまだスカートがあった。くそおー」
「ちょっと・・・、コレ ほら、この袋にもまだ入ってる!! きーーっ!!」
これはすべてみんなのひとり言で、決して会話ではない。きーっ!!と言っても誰かが「まあまあ!!」となだめるわけでもない。いいっぱなしだ。思ったことを口に出しているだけ。そのぐらい、たくさんの洋服が次から次へと出てきたのた。それは、ぷよぷよが上からどばーっと落ちてくるようなイライラ感。
ひとりひとりが、それぞれ洋服を手にしながらぶつぶつつぶやいているのは結構気持ちがわるい。しまいには、
「本当に、これまた着るのかなあ?」
と、ユーミンを疑いはじめたり。
案の定、しずかちゃんは、じーっと洋服の山を見ながら、
「捨てたい・・・・」
と、つぶやいてうなだれていた。
最後まで私も戦いたかったが夜から急な仕事が入ってしまい、途中抜けすることに。レディースパック部隊としての仕事をやり遂げることができなくて悪いなあと思っていたら、帰るときユーミンは言った。
「ホント、わざわざありがとね。仕事がんばってねーーーー。で、オオカワさん明日はなにしてんの? あのね、明日はね、食器の部なの。来れる??」