うそラジオ Podcast 松任谷由実はじめました

*******これは構成作家・大川女史のページです*******

そうだ、京都に行こう。
♪ダーララダーララダーララダー ダーララダララダラッダダー 〜♪

その晩、JR東日本のひとりごとの精霊が突然私にのりうつった。

「そうだ、明日ユーミンをほおずき市に誘おう」
♪パラリラパラリラー♪

ほおずき市。それは、毎年7月9日10日に浅草寺の境内で開かれる東京の夏の風物詩。 夜ともなれば、あちこちからつるされた豆電球の明かりがほおずきの緑と橙をやさしく照らす。ロマンチックな言い方をすれば、それは忘れかけた心の庭が並んだ景色。現実的に言うならば、どこから見ても異様な植物即売会。
「どうお姉さん?? 一鉢2500円!!風鈴つきだよーーー!!」

関係ないが、こうやって文字で「ほおずき市」と書くと、うっかり「おすぎ市」と見えてしまいそうでこわい。浅草寺の境内いっぱいに「おすぎ」がところ狭しと並んでいる。右を見てもおすぎ。左を見てもおすぎ。鳩の中にもおすぎ。プルッフー。
もちろんどれもこれも言いたい放題しゃべっている。「絶対見なさい!!」「なによあんた!!」「100年ぶんの涙を流したのは初めてです」「あーん、じれったい」「おすぎです」・・・・・・果たして風鈴はついているのか???

そんな楽しいほおずき市に、うそラジオチームと行きたいと思い収録のあと誘ってみることにした。私は2年間浅草に住んでいたので体験済みだったが、ユーミンをはじめ誰も行ったことがないというので好都合。それにさすが好奇心旺盛のユーミン。食いつきの速さはマムシの攻撃並み。

「え?ほおずき市?? 行ったことないない。行こう、行こうよお」

この最後の「行こうよお」あたりでユーミンの身体に女子高生の魂がおりてきているのがわかる。いわゆる自己イタコってやつだ。時々拝むことができる。ありがたやありがたや。
そしてそのあと、人間はやっぱり動物なのだと感じさせられることになる。気づかないうちにユーミンが毛穴から遊び汁でも出していたのだろうか。その汁のニオイに惹きつけられて来たとしか思えないタイミングで、なんとスタジオにユーミンの古くからの友達であるフジテレビのセレブこと末松千鶴さん(仮名)がふらっと入ってきたのだ。

「ほおずき市行くの〜???えー、行ったことない〜。いいよ〜。行っても〜」
(この人の語尾はいつもダレている)

こうしてユーミン、千鶴さん、くままろ、私の4人で浅草へと繰り出すことが決まった。(ニワちゃんとクボさんと流し雛近藤さんは都合で行けなかった)
いざタクシーに乗り込み、浅草へ。もちろんいつものように一番エライ松任谷由実嬢が自ら助手席に座る。浅草までの30分あまり、気がつけば後ろの席では私と千鶴さんのトークショー。
私 「こないだのメール、全然わかんないし」
千 「は?? なにいってんの。あのあともう一回送ったでしょ?」
私 「届いてないですよ」
千 「いーや、送りました!!」
私 「いーえ、届いていません!!」
千 「ちょっとアンタ、これで送信記録があったら大変よ。便所で茶巾寿司だからね」

・・・・便所で茶巾寿司。懐かしい言葉。いわゆる女子校ノリのいじめスタイルの定番(大昔の)。 スカートを裾からまくりあげて顔の上で結んでパンツ丸出しにさせるというハレンチ学園よりも品のないやつ。私はマンガでしか見たことはないが、千鶴さんは実践派なのかもしれない。こわくて聞けないが。私はどちらかというと少女コマンドーいづみ系でやるときゃドカンドカンと思いっきりいきたい。・・・って、いきたいってどこへ???・・・って浅草よ!!・・・え?バズーカで??

ためにならない話をしているうちに、車は神田・日本橋・両国を抜け、8時45分・雷門に到着。 
「わあーー、ついたついたあ」今日はシックないでたちのユーミンだが、発する言葉はガラスの十代。
仲見世に入ると人の波に押されながらもしっかりと雷おこしの試食に手を出しているユーミン。食べながらこっちを見てニヤニヤ笑っている。
・・・・・・・・気持ちが悪い。くままろとそーーっと2〜3歩下がる。
ユーミンは幸せそうだが、できる女風のサングラスに先の尖ったパンキッシュなハイヒールにディオールのカメラみたいな皮バッグを持って雷おこしをかじっているその姿は、はっきり言ってその場の雰囲気に溶け込んでいるとはいえない。まあそれが、ウディアレンが撮ってる都会映画みたいでいい感じに見えもするが。カツカツとヒールの音を立てながら、浴衣姿の姉ちゃんや長髪の不思議なおじさんや金銀パールをじゃらっとつけてるおっさんたちの間を練り歩き、ようやく境内へとたどり着くユーミン。映画のタイトルは「異邦人野郎」。

境内ではふだんはただ広いだけの場所に、これでもかというほどの夜店とほおずきを売るお店が並んでいる。ユーミンと千鶴さんは鉢植えではなく吊るすタイプのものをそれぞれゲット。
やはりなににしても見るだけではつまらない。波は完全に伝わらない。昔、夏祭りでヨーヨーやすくった金魚や綿菓子を手にしっかり握って家に帰ったように、大人になっても、ちゃんと手で触れて思い出をお持ち帰りするのはステキなことだと思う。あの感じは、CMではないが本当に「モノより思い出」だ。死ぬ前にも思い出せるだろうしね。
「行ったよねえ・・・・あの夏・・・みんなで・・・ほおずき市・・・」   ・・・・・ガクッ。

生きているユーミンはさすがにいろんなところを見ている。

「ほおずきって・・あんな字を書くんだね」

そう指をさして教えてくれたのは、屋台につけられた小さな紙。そこにはマジックで『酸漿』と書かれてある。漢字の横にはふりがながふってある。もちろん、『ほおずき』と。みんなで、「はじめて知ったねーーーー」と顔を見合わせる。なんだかすごくうれしくなった。
そんな気持ちを胸に境内をさらに奥へと進む。屋台の数はみるみる減り、明かりも数えるほどに。自分たちの砂利を踏みしめる音さえ聞こえる。ほんの何十メートル歩いただけなのに、あたりは静寂そのもの。なのにふっと振り返ればすぐそこに賑やかな現実が見える。
【うつし世は夢 夜の夢こそまこと】
浅草にかつて住んでいた江戸川乱歩が残した言葉。うつし世は夢。まさにそんな感じである。
そして、私たちはこの言葉どおり本当に夢であってほしい!!と思う出来事にこのあと遭遇するのだが、きっとそれは夢なので・・・・・消えてゆくに、違いない。