・・・世界ソウルソウル滞在記・・・
東大門区の丘の上にある慶煕(キョンヒ)大学・平和の殿堂というホールを目指して、我々・松任谷由実 with Friends of usoradioの面々は、くそ寒い中を歩いていた。
ソウルは寒いと聞いていたが本当に寒い。ババシャツを着てこなかった自分の横ッ面を張り倒して耳を引っ張りまわして汚い言葉でなじってやりたいほどに寒い。
広い大学の構内。暗闇の並木道。肩をつぼめ白い息を吐きながら歩く。エクトプラズム〜〜
坂道が始まると同時に、今まで木々以外なにもなかった前方にいくつかの建物が見えてきた。全体的に真っ白。中央には昔の美女たちの彫刻をほどこした噴水らしきもの。その向こうにどーんと立つのは、アメリカ連邦最高裁判所のようなパルテノン神殿のような物体。
「な、なんなんだ・・このいきなりの展開は!!」
しかしそんなもんに驚いている場合ではなかった。その向こうに細長く巨大なものがそびえていたのだ。思わずゴルフ場のキャディー並みに叫んでしまった。
「ファーーーッ!!バビルの塔だあぁぁーーーーー!!」
不吉な暗い空の中、天に向かって建つ平和の殿堂らしきそれ。ステンドグラスもバカでかい。ソウルなのにヨーロッパ。しかし私には見えた。バビル二世に仕える怪鳥ロプロスが塔のまわりを飛んでいるのを!なんだか魔女の集会に出るそんな気分。ああ、感動でおしっこちびりそう。チラリと雪も降り始めて、もう自分がどこにいるのかわからなくなった。
そんなピアノマンみたいな自分をハグしつつ、いざ、バビルの殿堂へ。
会場内も舞踏会かよ!と思うほどキレイだった。客層はバラバラ。子供にカップル、年配の夫婦、老人・・・それにシスターの集団もいた。
そんな一言では言いあらわせないお客さんでいっぱいのロビーは写真撮り放題。私たちも記念に撮りまくった。驚くことに、その撮り放題はライヴが始まっても続いていた。フラッシュバンバン焚くわビデオは回すわ。韓国、太っ腹だな、おい。
イムくんは、黒のスーツに床までとどく長いマフラーみたいなのを首から下げて登場。日本的にはちょっとした三代目若って感じだ。親父、あとはまかせろや。そんなノリ。
オープニング一曲目。のっけからとにかくすごい声量でびっくり。実は、ユーミンの登場は第二部と聞いていて、我々はこっそりこんなことを言っていた。
「第一部さあ、イムくんには悪いけど寝ちゃうかもね。だって知らない曲だしねぇ 韓国語だしねぇ クラシック系なんだろうしねぇ」
・・・実際、寝るものは誰もいなかった。なんだろう。惹きこまれてしまう。MCも何を喋っているかわからないが、楽しそうなのがよくわかる。イムくんはよく喋るし会場が爆笑したりもする。なんなんだ、この雰囲気は。イムくん、あなたは南こうせつか?!
で、あっという間に第一部終了。休憩を経てユーミンが出る第二部に突入。みんなで目を輝かせる。
「なんか緊張するねー」
ユーミンには失礼だが、我々は学芸会に我が子が出るのを待つ気分だった。登場のときつまずかないだろうか・・・歌詞を忘れないだろうか・・・お客さんに暖かく迎えてもらえるだろうか・・・などと、勝手に心配していたのだ。何様だっつうの。
ユーミンは銀色のキラキラがついた黒のドレスにティナターナーばりの爆発頭で登場。早速、イムくんと【春よ、来い】の熱唱。そしてトーク。ユーミンがどれだけすごい人かとか、紅白に出ることなどを話していたようだった。
ユーミンは人の庭で暴れる癖がある。暴れるというか、自由演技をして高得点を得るのがうまい。犬のマーキングみたいに、自分をそこに記してくる。そのときも、ユーミンは急にイムくんに手のひらを鼻に置いてなにかやっている。
イムくんはその意図がわからずに困り顔。見ている我々もユーミンがなにをしたいのかがわからない。どうやらユーミンは、イムくんに手のひらを鼻に置けと言いたいらしい。通訳さんがうながし、イムくんが言われたとおり、鼻を隠すように手をおくと・・・
「ね、コアラに似てるでしょう?」
と、言ったのだ。通訳されると同時に会場大爆笑。イムくんはショックを隠しきれず・・「チョンマル?(本当に???)」 そして悲しげに「・・・カ、カ、カムサムニダ〜(ありがとう)」と言い、会場はまた爆笑。
「ぐははははは」
ユーミン、勝利のおたけび。うなだれるイムくん。日韓・あした順子・ひろし。
すっかり会場もリラックスし、韓国語による【Smile again】を披露。ユーミンが自分のパートを歌うのを見守るイムくん。ユーミンの韓国語の発音ひとつひとつに感心するイムくん。我々はその優しげなまなざしに、すっかり釘付けになり、韓国語で歌いきるユーミンの相変わらずの学習能力ぶりに、ほげーーーーっとするのみであった。
いくつもの驚きがあった韓国ライヴ。聞き慣れないけれど心地いい韓国語のシャワーを浴びたあとホールを出たら外は真っ白になっていた。雪、積もりまくり。
やはり、ほげーーーーっである。