うそラジオ Podcast 松任谷由実はじめました

*****私 ただのミーハー*****

放送関係の仕事をしていて「うわあ」と思うのは、テレビで見る有名人を近くで見たときだ。テレビは魔法の箱。テレビカメラは、人をちょっとだけ小さくしたり大きくしたりワイドにしたり老けさせたりする。

それは人によってちがう。たいていはテレビで見るより細かったり小さかったりするのだが、ときどき反対の人もいる。
実物がテレビで見るよりぐーーんと骨太なアイドルとか、思ったよりゲロい俳優とか。

最近、ドラマ【男女7人夏物語】と【男女7人秋物語】のビデオにハマり思い出したのが、岩崎宏美。彼女は【秋物語】で今井良介(明石家さんま)と恋人になる沖中美樹を演じるものの、結局は元カノの桃子(大竹しのぶ)に良介を奪われてしまうという悲しい女の役だった。でもそのハツラツとした演技がなんともナイスで私なりに「よくやった岩崎宏美!!」と思ったものだが、生で見たときはしばし唖然とした。

あれは15年ほど前。フジテレビの楽屋で生宏美に遭遇したことがあったのだ。
お・お・驚いた。
な・な・なぜなら。
彼女は思ったよりもずっと小さくて思ったよりもずっと美人だったのだ。「え? あのアゴは?コロッケが真似してたあのクエッてなったアゴは?」と本人に問い詰めたくなるほど彼女はキャシャで美人でアゴなんてどうってことなくて素敵な人だった。

そおゆう美しいギャップ魂を持つ芸能人はけっこういる。
アゴつながりで言うならアントニオ猪木。確かにアゴは出ていたが、いつもアゴばかりに気をとられていたせいか全体像との比率を考慮にいれておらず、大男だと思ったのは間違いで、実際はソフトスレンダーでかっこよかった。おととし、ユーミンも初めてラジオの対談で会ったとき、

「猪木さん、色気ムンムン。思ってたよりムンムン・・・」

とマジに語っていた。
男の色気といえばミッチーもそうだった。はにわ顔のただのナルシストのカッコマンかと思ったら、むちゃくちゃ男らしい顔立ちで性格もさっぱりと男らしくて、ある番組の打ち合わせの最中に「なんだ、むちゃくちゃ男らしいんじゃん」とつい本人に言ってしまったほどだ。

はにわ顔で言うと元女子アナの中井美穂もみんなが口を揃えて「生で見るとすごいキレイ」と言っていた。
廊下ですれちがった知念里奈もかなりかわいかった。目が離れてるカエルちゃんのイメージがあったが、全然目なんて離れてなくて、面識はないのに、どあっとかけよってぎゅぎゅぎゅっと抱きしめたくなるかわいさだった。

どうやらテレビというものは、わずかながらも人より目立つ部位が大げさに映し出される恐るべき魔法の箱なのだ。人より突き出たアゴとか微妙に腫れぼったいとか離れてる目だとか。

そしてテレビで見た時点でものすごいかわいいのに生はもっとかわいいという贅沢な人もいる。ユーミンのオールナイトのゲストで来てくれた鈴木蘭々には参った。透き通るような白い肌にくりっとしたおめめ。その可愛さに私はショックで失神しそうだった。

おとといFMのゲストで来てくれたカヒミカリイの可愛さ度も抜群で、私は三秒固まった。線が細い。顔が小さい。白目より黒目の量がはるかに多い。長い黒髪がふんわりしている。三秒固まった後、この人は私たちとは違う生き物だと確信した。

そして大昔、当時ボディーミュージック系?と言われ、ライヴでは酸欠で失神者が続出していたソフトバレエの遠藤遼一を生で見たとき、私は真の美に触れた気がし、思わず言ってしまった。

「一緒に写真・・・とってください」

この業界、暗黙のルールのようなものがある。スタッフが個人的にサインをねだったり写真をとらせてもらうなどといったミーハー精神は持ち出さぬ美学というやつだ。好きでした、ファンでした・・と打ち明けるのは良いが、サインをねだるのは思わしくないという雰囲気がある。

そんなことはわかっていたが、そんなことを打ち破っても、私は遠藤遼一と写真がとりたかったのだ。ファンだからというよりも、このときは最高の美をなにかの形で残しておきたかった。動機は不純だった。

あれから10年以上が経ったが、その間特に誰かにサインをもらったり写真をとったりしたことはなかったが、最近私は再び暗黙のルールを破ってしまった。
とある番組のゲストで来てくださった人。それがサエキけんぞう。パール兄弟。ゴムボーイ。動機は純粋だった。

ムーンライダーズの曲の中に『9月の海はクラゲの海』という曲がある。作詞・サエキけんぞう。淡々とした歌詞ではあるが言葉の意味は深くて、何度も、ああっ ああっ ああっ と心が揺れた。いつかどこかでサエキさんに会う機会があったら「あの曲が好きです」と言おうと思っていた。

でもゲストで来ることが決まったのを聞いた瞬間、私の中にミーハーな悪魔が生まれた。
(ああっ あの『9月の海はクラゲの海』の歌詞カードのところにサエキさんのサインが書いてあったら、私の人生はもっといいものになるに違いないわ。悲しいときそれを見たらぐんと元気になるかもしれないわ・・・)と。

ミーハーで何が悪い!! 欲しいものは欲しいのだ!!
こうして私は、番組スタッフの年下のディレクターに、

「最初に断っておきます。わたくし、今日はサエキさんにサインをいただきます。いただきますといったらいただきますからっ!!!!!」

と、誰にも文句を言わせない勢いで勝手に断ってサインのおねだりにのぞんだ。サエキさんは快く歌詞カードにサインをしてくださり、つい私は調子にのって言ってしまった。

「あの・・・『きみっぺへ』って入れてください」

「き・・きみっぺ?」

「はい。私のことなんですうーーーあははー」

そんな風に甘えたおかけで、今ではリビングに『きみっぺ様へ』と書かれたサエキけんぞう直筆サイン入りのムーンライダーズ歌詞カードが飾られている。

ミュージシャン同士ではさすがにそういったことは少ないとは思うが、ユーミンや矢沢永吉、坂本龍一などは影響を受けたミュージシャンも多いようで、ときどきそんな話がでることがある。

去年、武道館でのトリビュートコンサートのとき、楽屋でアナログレコードをわざわざもって来てサインをねらっていたのは、天下の小西康陽だった。先日のゲイ祭で「あー、レコードもって来てサインもらえば良かった・・・レコードもってくれば良かった・・・」とつぶやいていたのは曽我部恵一だった。

きっとみんなリビングに飾りたいに違いない。みんなにうらやましがられたいというわけではなく、自分でうっとりしたいだけだと思うが。

歌詞カードといえば、もうひとつ歌詞カードへのサインバージョンとしては、かなりハイレベルなものをゲットしてしまった。きっとうそラジオリスナーには「ずるい!!」と怒られるかもしれない。
おわかりだと思うが、それはユーミンのサインだからだ。

FACESの発売で、作家・松任谷由実としての今までの仕事があらためて注目されたが、私がたぶん自分のおこづかいで1番最初に購入したユーミン作品がこれである。
1975年8月に発売されたアグネスチャンの【白いくつ下は似合わない】。

作詞作曲・荒井由実。
当時小学校二年生だった私はおこづかいでこのEPレコードを買った。値段は500円。ビニールは破れてボロボロ。歌詞カードも二箇所破れてボロボロ。実家に帰ったとき昔のレコードをちょっと見てみようと手にしたのだが、私はこの歌詞カードを見たとき我ながら感動してしまった。

当時子供だった私が、この歌を覚えようと、曲の中の読めない漢字にえんぴつでふりがなを書いてあったのだ。
「私(わたし)」「瞳(ひとみ)」「映(うつ)った」「涙(なみだ)」「落(お)ちて」「心(こころ)」「住(す)んで」「誰(だれ)か」「腕組(うでく)み」「遠(とお)くへ」「歩道(ほどう)橋(きょう)」「並木(なみき)道(みち)」「見下(みお)ろして」「歩(ある)き」「云(い)った」「失(な)くした」「何(なに)も」「白(しろ)い」「下(した)」「似合(にあ)わない」

なんて勉強家な私!!!自分で自分をほめたいとむせび泣きました。

(ああっ このすばらしき歌詞カードに、ユーミンのサインがあれば、10年は笑って暮らせそう。死ぬとき棺桶に入れたらあの世でも笑って暮らせそう・・・)

こうして私は、どんなに前向きな子供だったのかを力説しどさくさにまぎれてマジックをユーミンに渡し、

「ってことで、ここにね、サインをね、お願いします」

と勢いまかせでサインゲットに成功した。サインをしながらユーミンはそのアグネスの歌詞カードを懐かしそうに見ていた。

「B面もユーミンが作った曲ですよ」

私がそういうと、ユーミンはB面の曲【愛を告げて】という歌詞を見ながら顔をしかめて言った。

「うーんこの曲・・・どんな曲なのか・・・思い出せない」